過去のブログからの転載です。
観る前の期待と不安
「実写化」
この言葉には、えも言われぬ期待感と不安感を与える響きがあります。
期待して観に行くのですが、ほとんどの場合裏切られる。
なんでこんなストーリーにしたんだ。あの描写はないだろう。
そう思いながらも、やはり期待して観に行ってはガッカリする。それも原作が好きであればあるほど。
実写化が上手くいきにくいのには、大きく2つの理由があります。
一つは表現の問題、もう一つは時間の問題。
まず表現の問題ですが、私は基本的に、小説>漫画>アニメ>映画の順で、表現力が高まると考えています。
小説は文字でしか表現できないのですが、その分想像力を掻き立て、書き手次第でいくらでも自由な表現をすることができます。一方映画になると、具体的な映像まで見えてしまう分、表現の自由度が狭まる。
つまり表現が具体的になればなるほど、表現の自由度が狭まり、ひいては表現力が低下する。
特に本作、寄生獣では、人間と寄生生物とを顔や目で描き分けていて、それが非常に上手い。「涙」や「混ざる」といったキーワードがあるなか、漫画絵ならではの表現があります。
しかし映画でも、表現の自由度は狭まるものの、実写である分インパクトは高くなり、その表現の伝わりやすさは上がることがあります。
難しいのは、もう一つの時間の問題。
大体の実写化映画は、この問題によってガッカリさせられることが多いです。特に原作が好きなほど。
ガッカリする場合、これも大きく2つのケースがあります。
一つは、枠に収めるために、ストーリーを大きく書き換えてしまうケース。
もちろん書き換え方によりますが、原作への愛があるほど、受け入れ難い場合が多い。
例えば太宰治の「人間失格」実写化はこのケースでした。
もう一つは、ストーリーを変えずに枠に収めようと、全体として浅くなってしまうケース。
例えば村上春樹の「ノルウェーの森」実写化はこのケースでした。
大きなストーリーとしては原作に忠実なのですが、そのせいで一つ一つの場面が早く浅く、「ダイジェスト版かと思った」という感想が生まれます。
もちろん上手くいく実写化もあって、例えば伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」は、実写化しにくそうな構成ながら、非常に上手く映画で表現していて、素晴らしい作品でした。
本作の場合、2部作に分けていて比較的時間の余裕はあるであろうものの、やはり全てのストーリーを拾うのは難しいので、どう収めてくるのかという期待と、
やはり、表現の問題、特に寄生生物の表情、新一の表情と目、そしてミギーの表現がどうなるかが気になっていました。
原作 漫画「寄生獣」
映画の感想の前に、まずは原作について。
漫画「寄生獣」は、90年代屈指の名作です。
私が寄生獣に出会ったのは、中学生の時で、この時には既に連載が終了していたはず。
友人から全10巻の単行本を貰ったのですが、当時はストーリーの面白さにとにかく感心していました。
それから十数年、すっかり大人になって、当時持っていた単行本もどこかに行ってしまったのですが、ふとしたきっかけで完全版「寄生獣」全8巻を大人買いしました。
深い理由はなかったのですが、本棚に置いておきたいという軽い理由で購入し、読み直したところ、当時とはまた違った印象を受け、田村玲子の最後のシーンなど、涙を流してしまいました。
この作品は、ストーリーの面白さはもちろんですが、それ以上に、寄生生物と対比して際立つ人間臭さや、人間の非合理的な感情が、大きなポイントになっていると改めて感じたものです。
アニメ 「寄生獣 セイの格率」
映画の感想の前にもう一つ。
偶然かどうか知りませんが、同時期に放映されているアニメについて。
アニメ化すると聞いたときは楽しみだったのですが、タイトルを見た瞬間にテンションが下がったのを覚えています。
「セイの格率」って何だよwと。またラノベちっくな今どき作品にしちゃうのかと。
しかし実際に見てみると、こちらは今のところ非常に原作に忠実に、時代背景だけ現代に移しており、良い作品になっているかと思います。
漫画のアニメ化は、当然ながら相性が良く、テンポが悪いことさえなければ、そんなに悪くなることはない。
「進撃の巨人」がアニメ化によって一気に人気作になったのは、まだ記憶に新しいですね。あれは作画班が頑張ったのか、動きも表現も非常によく、アニメが漫画を超えた例かと思います。
また、アニメ「ピンポン」も名作でした。表現が非常に工夫されていて、アニメ版ならではの魅力があります。
アニメ「寄生獣 セイの格率」は、これらほどのアニメ化による劇的な進化はないものの、
古くなっている漫画「寄生獣」を、大筋を変えないままに現代版に翻訳している点で、高く評価しています。
映画「寄生獣」の感想
さて、いよいよ映画版の感想。
ドキドキしながら観ましたが、一言で言うと、「思いのほか良かった!」
出だしは荘厳で、映画ならではの表現の良さがあります。
ミギーの最初の会話シーンなどは、若干の「これじゃ無い感」がありますが、それは原作やアニメ版のイメージが強いため。慣れると、こういうミギーも有りかとなります。
ストーリーは、正直かなり改変されています。
時間の都合というのもあるのでしょうが、おそらく短い時間の中で伝えたいテーマとして「母親」に焦点を当てているようです。
原作では、新一の母や母親としての田村玲子など、母親の非合理な無償の愛も含みながらも、人間臭さや人間の感情全体を強く表現していたのですが、映画ではその中で特に「母性」のようなものをテーマにしています。
それが浮き彫りになるように、随所の設定やストーリーを捨象し、改変しています。
この辺の評価は好き嫌いが分かれるでしょうが、私は「有り」です。面白い。
そして表現についても、映画ならではの良さがあります。
危惧していた一番最悪のケースは、単なるアクション映画になってしまうことでしたが、そんなことはなかった。
もちろん戦闘シーンの迫力はありますが、寄生生物の顔の変化については、CGで頑張っていて、人間の顔での演技も悪くないなと思いました。
1点、最後まで気になったのは、全体的な「軽さ」
特に新一とミギーの会話シーンなどですが、なんというか、全体的にポップな感じ。
もっとミギーが冷徹であるべきところや、新一が取り乱すべきところがあったように思います。でも映画としては観やすくて、一つの作品になっていると感じました。
すごく偉そうな評価をしていますが、全体としては観る価値の十分ある、満足のいく映画になっています。
原作厨も改変に耐えられれば満足するでしょうし、原作を見ていない人はきっと素直に楽しめると思います。
改めて漫画のほうも読み直しますが、あまり対比をするものではないですね。